市場規模を把握する3つの指標 – TAM、SAM、SOM の計算方法と活用法
TAM、SAM、SOMとは?
まずは3つの指標の定義から確認しましょう。
TAM(Total Addressable Market)
TAMとは、ある製品やサービスの潜在的な市場規模の最大値を表します。つまり、競合他社の存在を考慮せず、自社が100%のシェアを獲得した場合の売上高を指します。
例えば、日本国内のコーヒー市場のTAMを計算する場合、日本の総人口にコーヒーの平均消費量と平均単価をかけ合わせた値がTAMとなります。
SAM(Serviceable Addressable Market)
SAMとは、自社の製品・サービスの仕様や価格帯、販売チャネルなどを考慮した上で、実際にターゲットとする市場の規模を表します。TAMよりも現実的な数値となります。
先ほどのコーヒー市場の例で言えば、自社が扱うのはスペシャルティコーヒーのみで、販売チャネルもオンラインに限定しているとします。この場合、スペシャルティコーヒーを好む層をターゲットとし、そのうちネット通販を利用する人数に絞り込んで算出した市場規模がSAMとなります。
SOM(Serviceable Obtainable Market)
SOMは、SAMのうち自社が獲得可能な市場シェアから算出される売上高です。競合他社の存在を考慮に入れ、短期的に現実的な売上目標を立てる際に用いられます。
コーヒー市場の例で言えば、SAMをベースに、自社のブランド力や競合との差別化ポイント、マーケティング予算などを加味して、1年後の売上目標を立てるとSOMを算出することになります。
TAM、SAM、SOMが重要な理由
TAM、SAM、SOMは、次のような場面で重要な意味を持ちます。
市場参入の是非を判断する
新しい事業を検討する際、TAMを見ることで市場の魅力度を判断できます。市場規模が小さすぎたり、既に飽和状態だったりする場合は参入を見送るという判断につながります。
事業計画を立てる
SAMを算出することで、自社の強みを生かせる市場を特定し、現実的な事業計画を立てられます。対象市場を明確にすることで、効率的にリソースを投入できます。
投資家にアピールする
ベンチャー企業がエンジェル投資家やVCから出資を募る際、TAMの大きさは重要なアピールポイントになります。有望な市場を狙っていることを示すことで、投資家の関心を引くことができます。
売上目標を設定する
SOMは売上目標を設定する上で重要な指標です。市場シェアをどこまで獲得できるかを見極め、現実的な目標を立てることが求められます。
TAM、SAM、SOMはどのように計算すればいいのか?
次に、TAM、SAM、SOMの具体的な計算方法を見ていきましょう。計算には2つのアプローチがあります。
トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチは、市場全体の規模から出発し、徐々に絞り込んでいく方法です。政府の統計データや民間のマーケットレポートなどを活用します。例えば、日本のコーヒー市場のTAMを計算する場合、次のような手順になります。
- 日本の総人口を把握する(仮に1億2000万人とする)
- 日本人の1人当たりのコーヒー消費量を調べる(仮に年間500杯とする)
- コーヒー1杯の平均単価を設定する(仮に200円とする)
これらを掛け合わせると、
TAM=1億2000万人 × 500杯 × 200円 = 12兆円
というTAMが算出されます。次にSAMを出すために、スペシャルティコーヒーの市場規模に絞り込みます。
仮にスペシャルティコーヒーの市場シェアが5%だとすると、
SAM = 12兆円 × 5% = 6000億円
となります。最後にSOMは、自社のシェア予測をSAMに掛けて算出します。
競合との競争力などを分析した結果、シェア1%なら
SOM = 6000億円 × 1% = 60億円
と計算できます。
ボトムアップアプローチ
ボトムアップアプローチは、顧客ターゲットを細かく設定し、そこから市場規模を積み上げていく方法です。自社の製品・サービスに適した市場をより正確に把握できるメリットがあります。コーヒー市場を例に、ボトムアップでTAMを算出すると次のようになります。
- ターゲットを設定する
- 20〜40代の会社員で、月収50万円以上
- コーヒーにこだわりを持っている
- ターゲットの人口を推定する
- 仮に500万人と推定
- ターゲットの購買力を予測する
- 月に5000円をコーヒー代に使うと仮定
- TAMを計算する
- 500万人 × 5000円 × 12ヶ月 = 3兆円
SAMは、TAMのうちオンラインで購入する層に限定して算出します。
例えばオンラインでコーヒー豆を購入する人の割合が20%だとすると、
SAM = 3兆円 × 20% = 6000億円
となります。SOMの計算は、トップダウンの場合と同様に、シェア予測をSAMに掛けます。
オンラインに強い自社が10%のシェアを獲得できると予測すれば、
SOM = 6000億円 × 10% = 600億円
と算出されます。
算出したTAM、SAM、SOMはどのように活用すればいいのか?
TAM、SAM、SOMを活用することで、自社の市場機会を客観的に評価し、戦略的な意思決定を行えます。以下のようなステップで活用を進めましょう。
TAMの推移を見ることで、市場の成長性を評価します。市場が拡大傾向にあるのか、縮小しているのかを見極めます。
SAMを複数の軸で算出し、自社が勝負できる市場を明確にします。製品の特徴や強みが、どのセグメントで発揮できるかを考えます。
SOMをベースに、売上や利益の目標を設定します。シェア獲得のために必要な施策を洗い出し、予算や人員を割り当てます。
事業を進める中で、定期的にSOMを再計算します。目標に対する進捗を確認し、必要に応じて軌道修正を行います。
事例で見るTAM、SAM、SOM
ここからは、架空のD2Cブランド「TASTY COFFEE」を例に、TAM、SAM、SOMの計算事例を見ていきます。
【前提条件】
- 事業内容:スペシャルティコーヒー豆のオンライン販売
- 主要ターゲット:20〜40代の味にこだわる人
- 提供価格:1kg 5000円程度のプレミアムコーヒー豆
TAMの算出
- 日本のコーヒー市場規模を調べる
- 市場レポートによると10兆円
- スペシャルティコーヒーの割合を推定する
- 全体の5%と推定
- TAMを計算する
- 10兆円 × 5% = 5000億円
TASTY COFFEEのTAMは5000億円と算出されました。
SAMの算出
- オンラインでコーヒー豆を購入する人の割合を推定する
- 市場調査の結果、20%と推定
- ターゲットの年齢層でさらに絞り込む
- 20-40代はコーヒー消費者の50%と推定
- SAMを計算する
- 5000億円 × 20% × 50% = 500億円
TASTY COFFEEのSAMは500億円と算出されました。
SOMの算出
- 競合の状況を分析する
- 高級コーヒー豆のオンライン販売は競合が少ない
- 自社の強みを整理する
- 味へのこだわり、素材の品質、ブランドストーリー
- シェア獲得率を予測する
- 参入初年度は5%のシェア獲得を目指す
- SOMを計算する
- 500億円 × 5% = 25億円
TASTY COFFEEの初年度のSOMは25億円と算出されました。
この数字をベースに、具体的な販売目標を設定し、マーケティング施策を立案することになります。
戦略を立てる上で欠かせない指標であるTAM、SAM、SOMを活用しよう
TAM、SAM、SOMは、市場機会を定量的に評価し、戦略を立てる上で欠かせない指標です。自社の製品・サービスの可能性を冷静に見極め、勝てる市場を見定める必要があります。ただし、これらの指標はあくまで「予測」に基づくものです。市場の不確実性は常に存在しますし、自社の強みを活かせるかどうかは未知数です。柔軟に予測を修正しながら、仮説検証を繰り返すことが求められます。TAM、SAM、SOMを経営判断の拠り所とし、スピード感を持って市場開拓に挑んでいきましょう。
TAM、SAM、SOMについてよくある質問
- TAM、SAM、SOMの違いは何ですか?
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TAMは市場全体の規模、SAMは自社が提供可能な市場規模、SOMは自社が獲得可能な市場シェアを表します。TAMからSAM、SOMへと範囲が絞られていきます。
- TAMを算出する際に使用するデータソースには何がありますか?
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業界レポート、市場調査データ、公開されている企業の財務諸表などが活用できます。信頼できるデータソースを複数組み合わせることが重要です。
- SOMを予測する際に考慮すべき要因は何ですか?
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自社の競争優位性、市場シェア、市場の成長性、参入障壁などを分析します。また、自社の製品・サービスの強みや、マーケティング・営業戦略も考慮に入れます。
- TAM、SAM、SOMを算出する目的は何ですか?
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市場機会を定量的に評価し、事業戦略を立案するためです。投資判断や経営資源の配分、売上目標の設定などにも活用できます。
- TAM、SAM、SOMの算出方法にはどのようなアプローチがありますか?
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トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの2つがあります。トップダウンは市場全体から絞り込む方法で、ボトムアップは個々の顧客セグメントから積み上げる方法です。両方のアプローチを用いることで、より正確な市場規模の予測が可能になります。