ビジネスモデルキャンバスとは?基礎から作成ポイントまで解説
新しい事業アイデアを考案した時や、まだ始まったばかりのビジネスを他者に説明する際、どのようにすれば的確に伝えられるでしょうか?そんな時に威力を発揮するのが「ビジネスモデル・キャンバス」です。
この記事では、ビジネスモデルキャンバスの基礎から、作成のポイント、キャンバスを使った事例まで解説します。
ビジネスモデルキャンバス(BMC:Business Model Canvas)とは何か?
ビジネスモデルキャンバスは、事業アイデアを構造化し、ビジネスの全体像を可視化するためのフレームワークです。1枚のシート上に、ビジネスの重要な要素を9つのブロックに分けて整理することで、事業の設計図とも言えるものを作成できます。
このツールは、スイスの起業家アレックス・オスターワルダー氏によって2000年代後半に考案されました。シンプルな構成ながらも、ビジネスの本質を捉えるための強力な枠組みとして、世界中で活用されています。
ビジネスモデルキャンバスを用いることで、自社の強みや弱みを分析し、競争優位性のある戦略を練ることができます。また、ビジネスパートナーや投資家など、ステークホルダーとの対話を円滑に進めるためのコミュニケーションツールとしても役立ちます。
では、なぜビジネスモデルキャンバスが必要とされているのでしょうか?次の章では、このフレームワークを活用するメリットについて解説します。
ビジネスモデルキャンバスを活用する理由とメリット
ビジネスモデルキャンバスは、単なる分析ツールではありません。このフレームワークを実際に用いることで、事業の設計や運営において様々な利点が得られます。ここでは、ビジネスモデルキャンバスを活用する主な理由とメリットを紹介します。
①ビジネスの全体像を一目で把握できる
ビジネスモデルキャンバスは、事業の重要な要素を9つのブロックに分類し、1枚のシートにまとめます。これにより、ビジネスの全体像を俯瞰することができ、事業の構造や仕組みを一目で理解することができます。複雑なビジネスも、このフレームワークを用いることでシンプルに可視化できるのです。
②関係者との認識合わせが容易になる
事業の立ち上げや運営には、様々なステークホルダーとのコミュニケーションが欠かせません。ビジネスモデルキャンバスを活用することで、社内の経営陣や現場のメンバー、外部のパートナーや投資家など、関係者との対話をスムーズに進めることができます。1枚のシートに事業の重要ポイントが集約されているため、議論の的を絞り、認識のずれを防ぐことができるのです。
③事業の改善点や新たな可能性が見えてくる
ビジネスモデルキャンバスの作成プロセスにおいては、自社の強みや弱み、機会やリスクが浮き彫りになります。既存のビジネスモデルを分析することで、改善すべき点や新たな価値提供の可能性に気づくことができるでしょう。また、競合他社のビジネスモデルと比較することで、差別化要因や独自の強みを発見することもできます。
④アイデアを迅速にテストし、改善につなげられる
ビジネスモデルキャンバスは、事業アイデアの仮説を素早く可視化するためのツールでもあります。新しいビジネスの構想を練る際、このフレームワークを用いることで、あるべき姿を明確にすることができます。また、実際に事業を進める中で得られた学びを基に、キャンバスを柔軟に修正していくことも可能です。仮説と検証を繰り返しながら、ビジネスモデルを進化させていけるのです。
⑤イノベーションを生み出すためのツールとなる
ビジネスモデルキャンバスは、既存の事業の改善だけでなく、破壊的なイノベーションを創出するためのツールとしても注目されています。新しい技術やアイデアを活用し、従来とは全く異なる価値提供の方法を編み出す際に、このフレームワークが役立ちます。キャンバス上で、斬新な発想を組み合わせ、事業の可能性を追求することができるのです。
以上のようなメリットから、ビジネスモデルキャンバスは、スタートアップから大企業まで、幅広い組織で活用されています。このツールを効果的に用いることで、事業の本質を見極め、持続的な価値創造を実現することができるでしょう。次の章では、ビジネスモデルキャンバスの9つの構成要素について、詳しく解説していきます。
ビジネスモデルキャンバスの9つの構成要素と作成ステップ
ビジネスモデルキャンバスは、以下の9つの要素で構成されています。
- 顧客セグメント(Customer Segments)
- 価値提案(Value Propositions)
- チャネル(Channels)
- 顧客との関係(Customer Relationships)
- 収益の流れ(Revenue Streams)
- 主要リソース(Key Resources)
- 主要活動(Key Activities)
- 主要パートナー(Key Partners)
- コスト構造(Cost Structure)
これらの要素は、相互に関連し合っており、ビジネスモデルの全体像を形作ります。以下では、作成のステップについて一つ一つ解説します。
【1】顧客セグメント:Customer segments
どのようなビジネスを行うとしても、すべてに顧客の存在があります。そのため、ビジネスモデルを作成する際には、顧客の特定・セグメンテーションが必須となります。
ここでは顧客像をペルソナとして説明する必要があり、次の要素が含まれます。
・人口統計(年齢、性別、居住地等)
・職業
・趣味
・抱えている問題
基本的な人物像が出来れば、さらに具体的な人物へアプローチし、より詳細な、普段の行動も含めたプロフィールを完成させていきます。
【2】価値提案:Value proposition
バリュープロポジション(価値提案)とは、サービスや製品の簡単な説明と、顧客自身が得られる価値です。言い換えれば、顧客が購入すべき理由をビジネスモデルキャンバスに書いてください。購入する理由になるためには、顧客が抱える問題を解決するか、付加価値をもたらしているかを意識しましょう。
また、バリュープロポジションは短い文で表現できる必要があります。自分と顧客がその価値提案を聞き、すぐに何を提供してもらえるかを理解できる文にし、もしあいまいな説明と専門用語があればそれを削除します。
バリュープロポジションを作成するためのバリュープロポジションキャンバスもあるので参考にしてみてください。
【3】収益の流れ:Revenue streams
ビジネスでは、製品・サービスを提供した結果、収益を生み出す必要があります。価値提供の結果どのように収益を得るかの説明をここでします。
一般的な収益を獲得方法は次のとおりです。
- 製品・サービスの販売:実際に製品やサービスを販売することにより、収益を生み出します。
- レンタル:事前に決められた期間に基づき商品を貸し出し、その対価として収益を得ます。
- サブスクリプション:継続的なサービス提供によって収益を生み出します。契約形態によって、年や月の定期的な間隔で支払いを受けるモデルです。
- ライセンス:企業が保有する知的財産を使用する許可を相手に与え、対価を得ます。
- 広告:ソーシャルメディア等でよく用いられる手法で、2つ以上の当事者間を仲介する形で機能し、閲覧や実際に購入に至った場合に対価を得ます。
【4】チャネル:Channels
ビジネスモデルキャンバスの考案者であるOsterwalderは自著『ビジネスモデルジェネレーション』の中でチャネル開発の5つのフェーズにフォーカスを当てています。
- 認識:ターゲットとなる潜在顧客との最初の接触と繋がり続ける仕組みを作る。ブログやソーシャルメディア、広告を通じてリーチしていきます。
- 評価:潜在顧客に対して商品を試してもらう仕組みを作る。価値を伝えるために、サンプル提供、事例の提示、既存顧客のレビューが有効となります。
- 購入:顧客がどのような手段で購入するか明確にする。製品やサービスによって、オンラインが中心となるのか、それとも対面でなくては価値を伝えられず購入に至らないかは違うため、性質にあった方法を構築します。
- ディストリビューション:顧客は最終的にどのような形で製品を受け取るか、そこに至る手段を明確にします。
- アフターセールス:販売で終わりではなく、顧客は利用を続けたり、再購買をします。それに対応したサポートを構築します。
【5】顧客との関係:Customer relationships
ビジネスモデルとしてどのように顧客との関係性を築くかによって、収益性も異なってきます。よってここでは関係構築・維持する方法を検討します。
顧客との関係タイプは主に以下の種類があります。
- パーソナルアシスタント:顧客と直接もしくはメール等のコミュニケーションツールにてやり取りします。特に高単価製品・サービスに対して必要となります。
- 自動化とセルフサービス:顧客が自分で問題を解決できる仕組みを構築します。多数の顧客と相対するECやSaaSでよく見られます。
- コミュニティ:顧客が特定のセグメントに分けられる場合に特に有効なのがコミュニティ形成です。コミュニティ内で相談を行い問題を解決したり、新たな製品の使用方法の発見に役立ちます。
【6】主要活動:Key activities
バリュープロポジションを作成しビジネス目的を達成するためには何をする必要があるでしょうか。ビジネスモデルを上手く回すためのタスクをリスト化していきます。
主要活動には3つのカテゴリーを意識します作成します。
- 生産:ビジネス目標に適合した製品の大量生産化もしくは効率化の計画
- 問題解決:製品・サービスを利用することで生じる問題を解決していく仕組み
- プラットフォーム:構築したビジネスモデル上で新たにビジネスが生まれる仕組み
【7】リソース:Key resources
ここではバリュープロポジションを作成するために必要な活動を実行するためのリソースをリスト化していきます。
主要なリソースは以下のものがあります。
- 人:ビジネスを運営する従業員
- 財務:現金や銀行ローン、助成金等
- 有形資産:不動産や施設設備、在庫等
- 無形資産:特許、著作権、ブランド、運営ノウハウ等
【8】パートナー:Key partners
パートナーは、主要な活動の実行を支援する外部の関係者・サプライヤーになります。これらの協力関係によって、リスクを軽減し、リソースを獲得していきます。
パートナーシップの種類の例としては以下があります。
- 提携:競合とならない企業とのパートナーシップ
- 合弁事業:新規市場に参入する場合に合弁で事業を構築するパートナー
- サプライヤー:製品やサービスで必要となる部品や人的リソースを提供するパートナー
【9】コスト構造:Cost structure
ここでは、ビジネスを実際に運営していくためにかかるすべてのコストを明確にしていきます。コスト構造はビジネスモデルや業界によって異なりますが、ここまでに定義したバリュープロポジション、リソース、活動、パートナーの観点で整理すると算出が簡単になります。
コストによって、製品の価格をどの程度にするか、どのように回収するかが変わるため、出来る限り全体像を把握しましょう。
ビジネスモデルキャンバスの作成ポイント
作成にあたり意識するポイントを3つお伝えします。
①最初の作成に時間をかけすぎない
ビジネスモデルキャンバスの利点の一つは全体像を把握することにあります。初期作成で一つの要素に時間をかけるよりも、まずはクイックに作成し、徐々に精度を増していきましょう。
②複雑にしすぎない
全ての要素を書き込みすぎると、結局完成したビジネスモデルキャンバスを共有したとしても理解が難しい状態になります。よって、シンプルな作成を意識しましょう。
③要素はすべて埋める
ビジネスを説明・構築するための主要な要素が網羅されているのがビジネスモデルキャンバスです。抜けが発生するとそれだけ信頼度が下がりますので、要素はすべて埋めましょう。
ビジネスモデルキャンバスの作成例(Airbnb)
Airbnbは、旅行者とホストが存在する2サイドのいわゆるプラットフォームビジネスになります。何をバリュープロポジションにするか、どのような収益構造にするかがポイントになります。単純化したビジネスモデルキャンバスの事例がありますのでご参考ください。
また、より詳細はキャンバスもありますので、実際に作成する段階で参照してみてください。
まとめ
ビジネスモデルキャンバスは、顧客価値の定義から収益の流れ、コストまでビジネスとして必要なあ要素をまとめるのに有効なフレームワークです。シンプルにまとめるため、共有を容易にし関係者を巻き込んでいくことが出来ます。
今回の記事でビジネスの成長の一助になれば幸いです。弊社は事業開発の支援をしておりますので、もし、新規事業や事業成長においてお困りごとがあれば一度ご相談いただければと思います。